第406回 < 2023年の資金の流れについて >
経済紙上などで、株式と債券への投資妙味を比較する記事を頻繫に目にするようになりました。昨年は、米国関連資産については厳しい1年となり、S&P500が約20%、NASDAQに至っては30%以上下落し、一方、安全資産であるはずの米国債も、急激な金利上昇をうけて二桁のマイナスリターンを計上しました。そのような状況下、2023年に入り、米国の大手年金基金などの機関投資家資金は、行き場を見定めるかのようにキャッシュに滞留しているという話も聞きます。
米国2年国債の利回りは昨年10月に4.7%を超えた後、足下は4.2%程度で推移する一方、10年国債利回りは10月に4.2%を超えた後、足下は3.5%近辺まで低下しており、景気の先行きを懸念したときに表れやすい逆イールドの状況となっています。さらに、国債金利にスプレッドが上乗せされる社債や、各種証券化商品の中には、金利が一桁後半から10%を超えるものも珍しくなくなってきました。
現在の投資家心理は、「米国を中心に起きたインフレの影響で景気先行に不安がある中、昨年価格が大きく下落した債券、株式のどちらの投資を選好すべきか、」といったところかもしれません。最近、米国の投資家や運用者と話していると、米国は昨年一部で考えられていたような深刻なリセッション入りは杞憂であったという意見が多いように思います。消費者物価の高まりは急激でしたが、賃金上昇を伴っており、購買力に大きな影響が出ていないことが背景にありそうです。また、企業業績についても今のところ心配されるような大幅悪化は出てきていません。
個人的には、二つの点を懸念しており、2023年は債券、クレジット関連の金融資産が株式関連の資産に比べて選好されやすい環境になるのではないかと考えています。一つ目は、前回のコラム(第405回 < プライベート・クレジットという資産クラス >)でも触れているように、米国を中心とした成長企業の株価が著しく高く評価されてきたことの反動が長引く可能性です。これまで、電気自動車関連やSaaS事業等のこれまでのグロース市場を牽引してきた銘柄群は、PSR(株価売上倍率)10倍を超えて評価されてきました。昨年、大幅な株価下落を経験したものの、価格調整はいまだに途半ばで、今後1年程度の時間を要するものと思われます。二つ目には、これまで高いレバレッジで成り立っていたバイアウト案件等が、昨年起きた急速な金利上昇の影響を受ける懸念です。
例えば、既に成立した買収案件等のLBOファイナンスの借り換えが発生すると、金利負担が大きくなり、場合によっては株価圧迫要因となりえます。また、借入コストの上昇は、現在検討されている買収案件の価格や成否に対して下押し要因となります。一方、定期的に利払いをもたらす債券関連商品は、利回りの向上から魅力的になっています。特に、流動性のある社債等に比べて高い利回りをもたらすプライベート・クレジットという資産クラスは、投資家にとって魅力的な金融商品となっています。もっとも、今後はデフォルト率の上昇や、投資対象の質の低下が起こりえる、これまで以上に不透明な相場環境が想定されます。しかし、不透明で買い手が限られる相場環境は、裏を返すと魅力あるアセットを安く手に入れるチャンスでもあります。私たちも、環境に一喜一憂せず、しかし環境を活かしながら投資を継続していきたいと思います。
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