第442回 < 新しい資本主義について >

ここ数年耳にする言葉の中に「新しい資本主義」があります。「新しい」も「資本主義」も時代や人によって解釈が異なる言葉かもしれず、この言葉だけでは何を指しているのか分かりません。政府が提唱するこの言葉の真意について理解しておくことは、現在の投資事業を行うにあたっても大事なことですので、一度整理をしてみようと思います。
令和3年に発足した岸田政権時代に提唱された「新しい資本主義」という考えのもと、現石破政権においても「成長と分配の好循環」、「賃金と物価の好循環」つまり持続可能な成長を実現することを目指しています。これまでの市場に依存しすぎた新自由主義的な資本主義によって生じた、格差や貧困の拡大、都市と地方の格差、環境問題等を問題視し、官と民が協力して形作る「新しい資本主義」によってこれらの問題を解消していこうという考えが根底にあるように思われます。
政府の掲げる「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の資料を見てみると、デフレ心理を払しょくし、「成長型の新たな経済」を実現するためには、【1】生産性を高め供給を増やすため、スタートアップの成長やイノベーション、事業承継、M&Aを促し労働移動等を通じて継続的な所得向上を実現、【2】需要を増やすため、社会課題解決を通して需要を開拓し、対価を伴う付加価値の高い解決策を生み出して市場を創出、拡大すること、【3】海外への市場展開を実現するため、海外との双方向とのつながりを強め、ソリューションの海外展開、投資や人材の流入、市場拡大を加速させることなどがあげられています。
生産性向上のためには、「人への投資によるスキル向上」「AI/ロボットの利用拡大などを通じた省力化」「ジョブ型人事導入、女性、外国人などの労働環境改革」、また、「スタートアップ育成5カ年計画を通じた産業の革新」、「M&Aの円滑化や事業承継支援の多様化を通じた経済の新陳代謝の活性化」等があげられています。国内投資の推進の必要性についても触れられており、脱炭素電源、DX化、AI、半導体、健康・医療、量子技術や新エネルギー等のイノベーション推進を支える仕組みづくりの議論がなされています。そのほか、エネルギー、食糧安全保障、資産運用立国の推進を通じた家計の安定資産形成支援やコーポレートガバナンス改革等による金融、資本市場の機能向上、年金改革等、多様な議論が存在しています。
このほかにも、デジタル田園都市国家、持続可能な地域経済社会を、自動運転の社会実装やデジタルインフラの整備、自然資本の保全等を通じて実現することが挙げられています。また、経済外交戦略と企業ニーズの連動、スタートアップを含む日本企業の海外展開を政府としてサポートすることの必要性に触れている一方、観光立国推進基本計画に基づいて訪日外国人旅行者数60百万人への増加と消費額15兆円という目標も掲げています。
実に様々な要素が盛り込まれた「新しい資本主義」の概念ですが、これを私たち投資運用会社の在り方と重ねると、ファンドの仕組みでスタートアップの成長やイノベーション、事業承継に関する投資を継続的に行い、社会課題の解決に貢献し、また、投資先が海外の市場を開拓するサポートすることが考えられます。また、地域活性化に資する観光ビジネスへの投資、日本が誇る製造業の事業承継課題の解決のための投資を行うことも重要かと考えています。私たちが貢献できる分野は限られていますが、数十年後の未来が少しでも良いものになるような仕事を心掛けたいと思います。