第441回 <最近の倒産件数増加傾向について >

足下、国内の倒産件数が増加しているというニュースを見ることが多くなりました。帝国データバンクによれば、2025年1月の速報値では33ヵ月連続で倒産件数が前年同月を上回ったとあります。過去の企業倒産について、東京商工リサーチが公開している統計等を見ると、バブル崩壊後の1990年代初期以降、2000年初頭をピークにコロナ禍の2021年までは約20年減少傾向にありました。特に2013年以降の大規模な金融緩和後は、倒産件数、負債総額ともに非常に低位で安定してきました。しかし、2022年初を底に、倒産件数が徐々に増加しており、その傾向が継続しているようです。
業種別には、「サービス業」、「小売業」、「建設業」での増加幅が大きく、資材価格高騰や人材不足の影響を受けやすい業種への影響が目立ちます。倒産形態としては、販売不振を中心に不況型の倒産が大半を占める一方、経営者の高齢化を原因とする後継者難による倒産が増加しているのも最近の特徴と言えます。過去60年の統計値を見ると、企業倒産の件数と負債総額の変化には最低10年単位のトレンドが存在しており、今後大きな政策転換などがない場合、2030年初頭までは倒産件数、負債総額の増加が継続するようにも見えます。
足下の倒産件数の増加の原因と、今後の方向性について考えてみたいと思います。過去の論文などから、一部の借入過多の不動産会社等を除けば、倒産件数や確率と金利上昇との間に明確な正の相関は見られないため、足下の金利政策の変換のみを今回の倒産件数の増加の原因とすることはできないように思われます。しかし、前述したように、資材価格の高騰や人材不足は一時的な事象とは考えられず、経営者の高齢化による後継者難も今後増加の一途を辿るものと予想できます。さらに、コロナ禍のゼロゼロ融資によって借入に対するガバナンスが緩んだ可能性も考えられます。事実、ゼロゼロ融資と通常の融資を両方受けている企業の財務状況は総じて悪化しているようです。
一方、過去の倒産件数増加時においては、低金利下の環境下での金融機関における不良債権処理に端を発する貸し渋りや、貸出金の回収が不況に陥った企業を直撃していたとみられます。足下における金融機関の財務状況には十分な余裕があるため、足下、貸し渋りや資金回収がすぐに起こるようには見られません。
このような状況を踏まえれば、足下の資材価格高騰や人材不足、後継者難を原因とする倒産件数の増加は継続的に増加するものの、急激に倒産件数が増加する要因とはならないかもしれません。仮に大きな変化が起こるとすれば、金利上昇を原因とした金融機関の不動産関連ポートフォリオの毀損、つまり、不動産ファンドを含む不動産関連事業に対する貸し付けの劣化が起きた場合、金融機関のリスク許容度が低下した場合です。このようなリスクに対して日本の金融当局は従来から様々なレポートや講演を通じて警戒感を表明しており、金融機関も慎重な姿勢を見せてはいるものの、不動産価格の上昇を背景に不動産関連貸付は増加しています。引き続き、国内の不動産市場、特に不動産ファンド等への金融機関の融資の状況について注視をしつつ、倒産件数の動向などとの関連にも気を配りたいと考えています。