第440回  < 2025年1月の日本銀行利上げと今後の金利政策について >

昨年2024年7月末の利上げ以降の1月利上げによって、日本の政策金利が0.5%となりました。1月23日、24日に開催された日銀会合前から、植田総裁や氷見野副総裁が利上げの検討について言及をしてきたことから、今回の利上げについては既定路線との見方もあり、市場に大きなインパクトはありませんでした。

日銀は、金融政策を通じて物価の安定と安定雇用を含む国民経済の健全な発展を図ることを目的として、2013年以降は物価安定の目標水準を消費者物価上昇率年2%と定めています。現在は、円安や資源高の影響も大きく、消費者物価の上昇率が年率3%強と目標値を超えている状況です。この点で物価上昇を抑制する効果のある当面の利上げは正当化されるように思われます。

また、元金融庁長官で現在日銀副総裁を務めている氷見野氏は様々な講演で「金利のある世界」について議論をしており、今後の金利上昇について市場の理解を求める姿勢が伺えます。それらの講演内容を見ることで、今後の日銀の金利政策について考えてみたいと思います。

現在、日本における名目金利はプラスの水準にあるものの、物価上昇に金利上昇が追い付いていないため、引き続き実質金利はマイナスです。具体的には、名目政策金利が0.5%で予想インフレ率が2%台半ばであることから、実質政策金利はマイナス2%と、非常に緩和的な金融環境が維持されているという認識です。これは、経済のマイナス成長を前提とした状況であり、氷見野副総裁の2025年1月の一橋大学政策フォーラムにおける講演での言葉を借りれば、「事業の実質価値が今後少しずつ毀損していくプロジェクトに、借金をして投資をしても見合う」環境です。ましてや、値上がりはしなくてもプラスのキャッシュフローが維持する可能性の高い不動産や、営業利益が横ばいであったとしても黒字を維持している企業への投資を、レバレッジをかけて(借入を行い)投資をすることで十分なリターンが期待できる世界ということになります。

日本の自然利子率、つまり経済を加速も減速もさせない中立的な実質金利は、経済の潜在成長率と近似することから、マイナス1%からプラス0.5%と幅をもって推計されていますが、実質金利をこのレベルにするためには、名目政策金利は少なくとも1.5%程度と計算されます。氷見野副総裁の講演内容を読むと、日本は人口減少という逆風にさらされつつもプラスの実質GDP成長を継続するとみており、今後実質金利もプラスに向かうことを示唆しているように思います。円安や資源高という外的要因が中心の物価上昇が継続する中、政策金利の上昇が遅れることで実質金利のマイナス幅が増えることは、成長事業への資金流入などの健全な経済成長要因を阻害し、不動産などの資産バブルを助長することになりえます。このような状況は日銀として望むところではなく、多少の弊害があったとしても政策金利上昇を継続していく覚悟が、政策当局者の間で徐々に固まっているのではないかと考えています。

今後も経済状況、日銀をはじめとする政策当局者の情報発信に注目し、金融市場の動向について考え続けていきたいと思います。

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