第410回 < シリコンバレー銀行とクレディ・スイスに起きたこと 【2】 >

シリコンバレー銀行は、2023年3月10日にカリフォルニア州の金融当局によって営業停止命令を受け、即座に連邦預金保険会社(FDIC)の管理下に置かれました。その前々日の3月8日にはシルバーゲイト銀行が、また、3月12日にはシグニチャー銀行が閉鎖されるという一連の破綻劇が起きる中、米国金融当局は極めて迅速に対応を行いました。その後、数週間の検証では、シリコンバレー銀行の経営陣が、金利リスク、流動性リスクを効率的に管理していなかったこと、銀行の急成長に対応できる内部管理制度の不備があげられました。さらに、シリコンバレー銀行については、2021年12月に行われたサンフランシスコ連銀の監査によって、「流動性ストレステスト」、「危機時の資金調達」、「流動性リスク管理」が指摘され、その後の監査でも、「内部監査制度の問題」や「不十分な取締役会の監督」が問題として指摘されていたそうです。

このような予兆が見られた中、今回、FDICと米連邦準備制度理事会(FRB)のスタッフは3月9日に状況把握と対応について協議しており、10日にFDICに対して巨額の預金流出が伝えられたことで、同日の午前中にはFDICがシリコンバレー銀行の資産を引き継ぎ、さらに売却までの繋ぎ銀行「Deposit Insurance National Bank(DINB)」の設立を決めました。繋ぎのための銀行は、翌週月曜日の13日に営業を開始し、すべての預金者の引出しに応じることになりました。バイデン政権、当局は、中小銀行への影響の伝播と金融危機への発展を警戒し、危機時に素早い対応を行ったことで問題を防いだと評価されます。また、3月26日には、ノース・カロライナ州の地銀であるファースト・シチズン銀行が総資産1670億ドルと預金1190億ドルをシリコンバレー銀行から引き継いだDINCを引き受けることが発表されました。これによって、今回の米国地銀の破綻を発端とした金融危機は、一旦回避されたように見えます。

しかし、2008年の金融危機時の教訓を背景に制定された「ドット・フランク法」が中小銀行への負担になっているという理由で、トランプ政権下に一部規制緩和がなされ、資産100億ドル以下の銀行でのストレステストが免除されていたことが、今回の問題の原因の一つとも言われています。米国金利上昇が続けば、同様の破綻の危機に瀕する銀行は約200行あると言われており、未だに予断を許さない状況が続いています。

クレディ・スイスの問題が浮き彫りにしたことも、長らく続いた金融緩和で膨張した資産に対するリスク管理、内部統制の欠如であったように思われます。今回、FRB同様、スイス国立銀行の迅速な対応とUBSによる救済合併という形態によって、リーマンショックのような事態は回避されました。しかし、今後も金融機関の難しいかじ取りは継続することになり、すべての金融機関を監督当局が管理することは困難かとも思われます。

歴史も地域もビジネスモデルも異なる2つの大規模銀行が、突然、相次いで破綻したことは注目に値します。いずれの銀行も直前まで高い自己資本比率を維持しており2022年末の財務情報を見る限り、当局が定める資本保全がなされていたにも関わらず、預金者、市場参加者からの信頼を急速に失ってしまった結果の出来事です。今回、これまでの金融危機の教訓から、監督当局や市場参加者が事態を迅速に把握し、週末を活用してFRB及びスイス国立銀行が預金保護や流動性供給を迅速に行う旨のアナウンスをしたことで、市場への影響は限定的であったように見えます。しかし、急激な金利上昇による資金の逆回転が今回で終わったとは思われず、今後も似たような事案とともに当面の間、市場のセンチメントが悪化する可能性が想定されます。今回の事件を踏まえ、データ、数値だけに囚われず、市場環境を俯瞰し、また、想像力を働かせて投資のリスク管理を心掛けたいと思います。