第454回 < 金利上昇がプライベートアセット市場にどのように作用するか >

欧米のPEファンドの投資に関して、投資回収期間が延びているという話をよく耳にしますが、レバレッジを多用するバイアウトファンドの金利上昇期における行動様式を考えれば至極当然の状況に思われます。本コラムでは、具体的な数値を見ながら米国を中心とした金利とバイアウトファンドの関係を整理し、今後の日本における状況についても推論してみたいと思います。
2022年3月から2023年7月にかけて米国FRBが実施した525bpという1980年代以来最大の利上げは、バイアウトの資金調達コストを急上昇させ、取引件数の急減をもたらしました。具体的には、グローバルにおける2023年のバイアウト投資額が2022年比37%減の4,380億ドルにまで落ち込み、2016年以来最低水準となりました※1。 リターン面では、2022年〜2025年Q3のMSCI米国PEインデックスの年率リターンは5.8%にとどまり、同期間のS&P500の11.6%を大幅に下回る結果となりました。
機関投資家のPE投資の回収も過去に比べて大幅に遅延しています。ファンドの純資産に対する分配金の比率は、2021年のピーク時に29%あったものが、2024年には11%まで低下しました※1。Exitの遅れと分配金の遅れは当然ながら連動しており、投資先の平均保有期間は2005年以来最長となる約7年まで伸びています。
一方、日本のバイアウトファンドについては異なる光景が見えます。世界の機関投資家からの信頼は高リターン実績によって支えられ、日本特化型ファンドの調達額は2023年に前年比倍増し、その傾向は継続しています。Carlyleは2024年に4,300億円規模の第5号日本特化ファンドをクローズし、日本のバイアウト戦略として史上最大の調達額を記録しました。日本のバイアウトファンド(2010〜2023年ビンテージ)の中央値DPIは2024年1月時点で1.01倍に達しており、他国のバイアウトファンドと比較して際立って高い水準です。4年連続でPEディール総額は3兆円を超え、2024年には3.1兆円に達しました。特に低水準にある金利がLBOの資金調達コストを抑制していることも、こうした好調なディール環境を支える一因です。また日本のPE投資はGDP比でまだわずか0.4%にとどまり、米国の1.3%、欧州の1.9%と比べ成長余地が大きいことも、世界の機関投資家を惹きつける要因となっています。
では、日銀の政策金利引き上げは今後の国内PE投資にどのような影響を与えるでしょうか。まず企業価値評価への間接効果として、金利上昇が割引率の上昇をもたらすことで、Exit時の売却価額が低下しリターンが悪化することが想定されます。次に資金調達コストへの直接効果として、典型的なバイアウト案件ではローンの比率を40〜60%程度とすることが一般的であり、金利が1%上昇すると案件の資本コストは0.4〜0.6%程度上昇し、5年間の保有期間中のIRRを2〜3%引き下げる効果があると考えられます。
もっとも、日本においては潜在的な事業承継案件が数多く存在すること、継続的なコーポレートガバナンス改革によりカーブアウトや非公開化が進んでいること、非効率な事業のDX化による利益率改善余地が大きいことなどの構造的優位性が、金利上昇の影響を一定程度緩衝すると考えられます。しかし政策金利が2%を超えるような局面では、こうした耐性にも限界が生じ、バイアウトファンドのリターンへの下押し圧力は無視できないものとなる可能性があります。金利上昇が構造的にバイアウトファンドのリターンの低下要因となることは十分に認識しておく必要があると考えています。
※1 Bain & Company 「Private Equity Outlook 2024: The Liquidity Imperative」https://www.bain.com/insights/private-equity-outlook-liquidity-imperative-global-private-equity-report-2024/

