第460回 < プライベートクレジットファンドの拡大と多様化についての考察 >

2026年9月、日本銀行は日銀レビュー「プライベートクレジットファンドの拡大と多様化について」を公表しました。4月の金融システムレポートでも取り上げられたプライベートクレジット(PC)ですが、今回はその構造変化に焦点を絞った内容です。本コラムでは要旨を紹介しつつ、私自身の経験に照らして考察してみたいと思います。

1. 規律の緩みは「数字に出る前」に始まる

 レビューによれば、PCの中核であるダイレクト・レンディングでは、待機資金(ドライパウダー)が積み上がったままファンド間の融資競争が激化し、スプレッドの縮小やコベナンツの緩和が進んでいます。加えて、既存ローンの期中に利払いを満期まで繰り延べるPIK条項を追加する「事後PIK」の比率も上昇しています。デフォルト率は現時点で大幅な悪化を示していませんが、海外当局も指摘する通り、デフォルト率は遅行指標であり、条件変更によって悪化の顕在化が先送りされている可能性があります。2007年夏、クレジット・スプレッドの縮小に賭けていたヘッジファンドが一斉に損失を蒙った局面を思い出します。直前まで市場は平穏で、統計上のリスクは小さく見えていました。資金が余り、貸し手が借り手に譲歩し始めたとき、規律の緩みはすでに始まっていると思われます。2007年当時、ニューヨークでクレジット戦略を担当するファンドが一堂に会する会議に参加をした際、先行きのリターンについても非常に強気な運用者が多かったと記憶しています。今回も注意が必要な時期に来ているように思われます。

2. 「解約できる」という約束の重さ

 もう一つの変化は、個人投資家向けのセミリキッド型ファンドの拡大です。月次や四半期ごとに一定の範囲で解約を受け付ける非上場BDCは、北米ダイレクト・レンディング市場の2割程度を占めるまでになりました。レビューは現時点の流動性リスクを限定的としつつも、想定以上の償還圧力が続く可能性に留意を促しています。2008年の金融危機では、多くのヘッジファンドがゲート条項を発動し、月次や四半期の解約を期待していた年金基金が1〜2年にわたり資産の塩漬けを余儀なくされました。流動性の低い資産を流動性のある器に入れれば、ストレス時にそのミスマッチは必ず表面化します。しかも今回の担い手は、投資対象への理解が十分とは言えない個人投資家が多く含まれています。この点は当時以上に重く受け止めるべきでしょう。

3. 日本の投資家への示唆

 レビューは、本邦の銀行・生保・年金がPCへの投融資を通じて海外市場との連関性を高めていることにも触れています。ABF(アセットバックファイナンス)ファンドの裏付資産リスクや、AI・SaaS関連への業種集中など、見るべきリスクはもはや企業信用だけではありません。他方、ストレス時に流動性を必要とする投資家の持分を適正価格で引き受けるのは、セカンダリー市場の役割でもあります。しかし、低流動性のPCを引き受けられるセカンダリー市場が十分に機能するかどうかは不透明です。PCが長期リスクマネーの担い手として成長を続けるのか、それとも規律の緩みのツケを払うことになるのか。その分かれ目は利回りの高さだけではなく、運用者の与信規律と市場に異変が起きた際の対応能力を見極める投資家側の目にあると考えています。

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