第444回 <2025年4月公表の金融システムレポートを読んで >

本コラムでは、日本銀行が毎年公表する、金融システムレポートを定点観測的にレビューしています。直近に発行されたレポートについても内容を見ていきたいと思います。
まず、本レポートの目的である金融システムの安定性の評価の観点では、足下の国内金融システムは安定性を維持している状態と総括しています。国内金融機関は全体としては、現在の地政学的リスク、海外金利上昇や物価上昇などの環境下でもストレス耐性を持っており、総じて健全な状態にあるとの評価です。トランプ関税の影響については、「各国の通商政策がグローバルな金融経済情勢に及ぼす影響の不確実性が高まっている」という表現が随所に見られましたが、具体的な影響についての評価はなされていませんでした。
金融市場における懸念点として、大都市圏の不動産価格の大幅上昇や企業倒産、デフォルトの増加、投資ファンドを中心としたノンバンクの投資額増大とそれらのファンドに対する国内金融機関の投融資額の増加があげられています。また、国際金融市場においては、特に欧米での金利高止まりによる不動産市場の不安定性や、中国市場の先行き不透明感が見られ、国内市場と比較してリスクの高い状況にあると見られています。
今回のレポートの特徴は、当社が業務として日々関わるプライベートエクイティファンド等の投資ファンドと国内金融機関の関連性が詳細に描かれている点です。特に、国内⾦融機関の有価証券ポートフォリオとグローバルな投資ファンドのポートフォリオについて、リターンの相関関係が高まっていることから、国内外の投資ファンドの動向、特に、金融危機時に見られたような投資ファンドの問題が国内金融機関に与える影響が高まっていることを指摘しています。
本レポートでは、その点をさらに踏み込んで分析しています。第⼀は、国内⾦融機関の海外ノンバンク部⾨への投融資が⼤きく増えていることを指摘し、国内⾦融システムが、グローバルな⾦融市場の変動や海外ファンドを通じた影響を受けやすくなっていることを示しています。第⼆に、投資ファンドを中⼼とした海外ノンバンク部⾨の本邦株式・債券への投資が顕著に増えており、先物市場におけるオフバランス取引も含め、国内⾦融市場、および国内の資産価格に対して投資ファンドの動向が影響を与えやすくなっている点を指摘しています。一方、最後には、国内ノンバンク部⾨においては海外同様の投資ファンドの運⽤資産の拡⼤はあるものの、国内経済主体への与信や国内⾦融機関からの借⼊といった観点では相互連関性の強まりはみられないという点で、国内ノンバンク部⾨から国内⾦融機関へのリスクの波及は相対的に⼩さいと説明しています。今回の調査では、国内金融機関の海外プライベートファンド向けの投資額を調査会社Preqin等のデータを使って計測しており、国内投資家のPEファンドへの投資額を足下で約10兆ドルと見積もっています。この額は、プライベートデットファンドへの2兆ドル、実物資産投資の4兆ドルと比較しても極めて大きく、また、国内金融機関の国内外PEファンドに対する投資がこの10年で3倍程度拡大してきたことと合わせて、金利上昇、企業のデフォルト増加時における潜在的なリスクとしてとらえているように見えます。
長い間、金融システムレポートを読んできましたが、今回ほどプライベートエクイティファンドについて大きく取り上げたことは記憶になく、前回の金融危機以降で初めてといってよいほど、日銀、当局が投資ファンドの市場に対する影響度合いについて注目している証左であると思われます。私どもも、日々の投資ファンドとの付き合いを通じて、変化に敏感でいようと考えています。