第459回 < 30年ぶりの長期金利3%が示唆すること >

「金利のある世界」を知る実務家は、いまや少数派です。私が銀行員としてオルタナティブ投資の道に入った1990年代、10年物国債の利回りは3%から2%割れへと、坂を下るように低下していました。当時の3%は、下り坂の途中にあった3%です。それから約30年。2026年9月1日、利回りは再び3.005%を記録しました。3%台への到達は1996年9月以来のことです。ただし今回は、坂を上る途中の3%。同じ数字が、逆向きの矢印を伴って戻ってきたのです。30年前の3%が低金利時代の「入口」であったなら、今回の3%はその「出口」の扉を告げているのかもしれません。

1. 「リスクフリーで3%」がもたらす地殻変動

金利がゼロ、あるいはマイナスの時代、投資家はリターンを得るために否応なくリスクを取らされてきました。株式やプライベート・エクイティ(PE)、不動産に資金を配分しなければ、十分な目標を達成できない状況だったからです。ところが、ほぼ無リスクの長期国債やプライベート・デットで3%前後を確保できるようになると、状況は一変します。新たなリスク投資に求められるハードル(期待リターン)が跳ね上がるからです。「5〜6%を狙って過度なリスクを取るより、3%台を手堅く得るほうが合理的だ」という投資家心理が働くことで、長く「稼がない資産」とされてきた債券やインカム商品が、ポートフォリオの主役へ返り咲きます。

同時に、割引率が本来の意味を取り戻します。これまでは、ゼロに近い割引率で割り引くことで「どんな将来価値もさして変わらない」という錯覚が生じ、年限の長い資産ほど有利に思える相場観が形成されていました。しかし金利が3%に戻れば、将来のキャッシュフローはより厳格に現在価値へと引き戻されます。資産を評価する物差しそのものが替わったのです。

しかも今回の金利上昇は、財政不安の側面も映し出しています。国債費見積もりの前提となる「予算積算金利」は、2025年度に2%、2026年度に3%へと引き上げられ、市場金利は2年続けてその想定に追いつきました。「金利のある世界」とは、時間にも借金にも、正しく値札がつく世界にほかなりません。

2. オルタナティブ投資の試練と選別

「金利のある世界」への回帰は、私が長年関わってきたPEやベンチャーキャピタル(VC)、不動産ファンドにも構造変化を迫ります。低金利下では非流動的資産にも潤沢なマネーが流れ込みましたが、金利上昇下では、リスクに見合う「非流動性プレミアム」を実際に稼ぎ出せるファンドしか選ばれなくなります。無リスクで3%が得られる以上、求められるハードルは当然切り上がり、過度な借入(レバレッジ)に頼る手法は限界を迎えます。これからは、純粋に事業価値を高める真の投資力が問われることになります。

また、上場資産の下落によって相対的に非流動性資産の比率が高まる「分母効果」が生じると、流動性を確保するために低流動性資産を売却しようとする投資家が増加します。しかし、まさにそこにこそセカンダリーの買い手の好機(出番)が存在します。分配の鈍化や評価減(マークダウン)が広がる裏で、規律ある適正価格を探索する機能が決定的に重要となります。市場の健全化という観点においては、真価が問われる時代の到来と言えるでしょう。

3. これからの運用の形

金利上昇の局面では、一時的に債券安やプライベート市場の調整が発生します。しかし金利の存在は、「時間に正当な価格がつく」という運用本来の健全性を取り戻すことでもあります。割引率が機能することで、奇をてらわない本質的な投資評価が可能になります。単にリスクを追い求める時代から、リスク・リターン・流動性を精緻に按配する時代へ——。 30年前と同じ「3%」という数字が、逆向きの矢印とともにモニターに灯っています。約30年間にわたりオルタナティブ投資と向き合い続けてきた私にとっても、この30年ぶりの3%は、「真の運用力とは何か」を深く問い直す大きな節目と感じています。

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